OB訪問は廃止するべきか

 

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はじめに

ここ最近の相次ぐ不祥事により、OB訪問の存在意義を問う声が強まっています。

今年の春、住友商事社員がOB訪問マッチングアプリで知り合った女子大生に性的暴行を加えたとして、準強制性行と窃盗の疑いで逮捕されました。

また同時期には、大林組社員が女子大生にリクルーターとして接触し、不適切な行為をしたとして逮捕されました。

このようにOB訪問を利用した悪質な犯罪が顕在化され始めたことで、OB訪問の必要性が疑問視され始めています。

今回は“OB訪問は廃止するべきか”というテーマに、今年就活を終えた学生の立場から考えていきます。

テーマの具体化

まず“OB訪問は廃止するべきか”というテーマは少し漠然とし過ぎているので、もう少し具体性をもたせます。

OB訪問には、以下2つの方法があります。

・大学のキャリアセンターや知人の紹介などを通したアナログで繋がる方法

・OB訪問マッチングアプリ(以下マッチングアプリと表記)を利用したデジタルで繋がる方法

従来の就活では前者のアナログな方法が利用されてきましたが、ここ最近ではHELLO,VISITSビズリーチ・キャンパスといったマッチングアプリが整備されてきたことで後者のデジタルな方法が定着しつつあります。

前者のアナログな方法においては、規制する手段は正直言ってありません。

誰が息子を同僚に会わせようとする父親の行動を止めることができるでしょうか。

一方後者のデジタルな方法であれば、規制の手段はいくつかあります。

例えば法整備によりマッチングアプリ運営者を認可制にする、規制を強化する、運営者が自主的にガイドラインを作成するなど

従って今回は、マッチングアプリを廃止するべきか”というテーマに絞りたいと思います。 

サービスの存廃を定める明確な基準

冒頭のようなニュースが流れることで

マッチングアプリが犯罪の温床になってるのは明白であり議論の余地はない、即刻廃止するべきだ」

という↓のような声が早速聞こえてきそうです。

 

確かに冒頭で紹介した2つの事件はいずれもマッチングアプリを介した犯罪です。

ですがよく考えてみてください。

そもそも何1つ問題のない、完全なサービスなどこの世には存在しません。

何か問題が生じたときに、その背景を確かめもせずに安易にサービスを廃止させるべきだと主張するのは、あまりにも短絡的過ぎるのではないでしょうか。

冷静に問題点を洗いざらい導き出し本質をきちんと見極めた上で、存廃を決定するべきです。

そのためにまずサービスの存廃を定める明確な基準を定めていきます。

どのような基準を設ければ良いでしょうか。

僕は以下のような基準を考案しました。

 

(a)サービスが存在することで対象者が享受するメリットの総量

(b)サービスを存在することで対象者が被るデメリットの総量

(a)>=(b)ならば存続すべき

(a)<(b)ならば廃止すべき

 

少し分かりにくいので、具体的に説明します。

例えば“警察”というサービスを考えてみてください。

警察には”地域の治安維持”という役割があり、それゆえに対象者である僕たちは日々の安全というメリットを享受できます。

ここで警察官が不祥事を起こしたニュースが流れたとしましょう。

窃盗でも詐欺でもなんでもいいですが、このニュースを見た多くの人々が犯人が警察官であるだけに強い憤りを感じると思います。

しかし間違いなく言えることが1つあります。

それは、絶対に警察組織を廃止する方向に議論は進まないことです。

なぜならば日々警察が僕たちに与えてくれるメリットの大きさに比べれば、警察の何件かの不祥事などは見過ごしてしまえるほど小さなデメリットであることが明白だからです。

つまりこの場合、(a)>>>>>(b)が成り立っているために存続が決定されるのです。

マッチングアプリの存廃を定める基準

マッチングアプリの存廃をこの基準を用いて考えると以下のようになります。 

 

(a)マッチングアプリが現状あるために対象者が享受するメリットの総量

(b)マッチングアプリが現状あることで対象者が被るデメリットの総量 

(a)>=(b)ならば存続すべき

(a)<(b)ならば廃止すべき

 

加えて対象者を明確に定めておきましょう。

マッチングアプリの利害関係者は主として運営企業・参加企業・社会人・学生の4者がいますが、ここでの議論においては対象者を学生に絞ることにします。

なぜならば、就活においては第一に学生の立場を考えるべきだからです。

ではこの基準に沿って考えていきたいと思います。

(a)マッチングアプリがあることで学生が享受するメリット 

OB訪問においてマッチングアプリを利用することで、今までのアナログな方法で起きていた以下2点のデメリットが解消されました。

手間隙かけずに気軽にできる

従来のアナログな方法では、OBを探すのにも一苦労でした。

例えば部活やサークルに属していない人はキャリアセンターに行って名簿から直接電話をかけて交渉する必要がありました。

また名簿上の志望企業にOBが存在せず泣く泣くOB訪問を諦めることなどざらにあったでしょう。

しかしマッチングアプリという仲介者が出現したことで、アプリをインストールしてプロフィール入力さえ済ませれば、あとは色々な企業からOB・OG選び放題です。

ものによってはもはや同じ学校のOBでなくとも会えるものすらあります。

会いたい人を自由に選べる

従来のアナログな方法では、事前にどんな人と会うのかは分からないことが多いです。

部活やサークルの先輩でしたら別ですが、キャリアセンターの名簿上のOBには卒業年度以外何の情報もありません。

従って実際に会ってみても、自分が知りたい情報を持っている人ではなく時間の無駄となることもあったでしょう。

しかしマッチングアプリではプロフィールを充実させているOBも比較的多いので、たくさんの候補の中から自分に適したOBを見つけ出すことも可能です。

そのため本番では、安心して臨むことができる上に事前にいくつかの質問を用意しておいたり、OB側が質問の答えを用意しておいてくれることさえあります。

(b)マッチングアプリが存在するために学生が被るデメリット

やはり最も深刻な問題は、女性へのセクハラ問題です。

犯罪として表面化したのは冒頭の2件だけですが、これらは氷山の一角に過ぎません。

先日12月2日には、東京大学早稲田大学慶應義塾大学上智大学創価大学国際基督教大学の学生らによる団体「SAY」のメンバーにより就活のセクハラ対策を訴える記者会見が行われ、そこではマッチングアプリでの被害も告発されました。 

OB訪問マッチングアプリで出会った企業の人から「就活を手伝うよ」と言われ性的な関係を求められた人もいたそうだ。さらに、友人にも同様の発言をしていることが後日発覚するなど、アプリを通じて同一人物が複数の学生に性的な関係を求めている実態もあるという。

出典:大学は就活セクハラ対策を現役学生らが訴え。「前例がない」とスルーされた過去も | BUSINESS INSIDER JAPAN

また同様の被害はSNS上でも多数発信されています。

 

ただ注意しなくてはならないのが、ここではマッチングアプリを使用するからこそ生じるセクハラ問題について議論すべきであることです。

テーマはあくまでもマッチングアプリの存廃であるため、マッチングアプリに理由がない他のセクハラ(例えば面接中のセクハラ発言やインターン中の不適切な行為など)は明確に切り離す必要があります。

持論

以上を踏まえて僕の導いた結論が以下の通りです。

“OB訪問の存在意義に疑いようはなく、それを活性させるマッチングアプリは廃止の必要は全くない、ただし何らかの規制は必要“。 

これを見た皆さんの中には、

「廃止の必要がないということは、先程あげた基準(a)>=(b)をお前は説明することが出来たのか」

と思われた方もいると思います。

しかし正直これを証明することはできません。(大口叩いてすみません)

なぜならば僕には、マッチングアプリによりどれ程の人がどれ程のメリットを得ているのか、どれ程の人がセクハラ被害を受けておりどれ程の精神的苦痛を受けているのか等を明確に定量化して計算することができないからです。

そしてこれはおそらく誰一人としてできないでしょう。

ではなぜ、廃止の必要がないと断言できるのでしょうか。

その理由は、マッチングアプリに規制をすることで将来的に(a)>=(b)を自明にすることができると考えているからです。

時系列という視点

実は先ほど挙げた基準には、時系列という視点が欠けているのです。

例えば日韓関係を例にしてみましょう。

今の両国の関係は戦後最悪と呼ばれるほど悪く、日本では年々嫌韓感情が高まっています。

このような状況の中で一部の右寄りの人々が主張する、“韓国とは断交をすべき”という意見は正しいのでしょうか。

これは一見すると、ただの暴論に思えます。

いくら仲が悪いといっても韓国が日本にとって重要な貿易相手国であることはれっきとした事実であり、断交により民間交流まで停止させてしまえば日本には多大な経済的損失が生じるからです。

しかしここに時系列という視点を突っ込むとどうなるでしょうか。

韓国政府は国家方針として反日政策を取り入れており、政界内でのスキャンダルが発生すると民衆の支持を失わないように意図的に反日感情を高めることも多々あります。

それだけならまだ良いですが、国家間の協定すら平気で破ることがあり正直韓国政府は全く信用できません。

表面上は友好関係を維持しつつも本質的な敵対関係が未来永劫続き日本を苦しめ続けるのならば、いっそ断交するのもアリではないか、と考える人がいるのも正直理解できてしまうのです。(心情的に理解できるだけであり個人的にはやはり暴論であると考えています。)

つまり時系列を考慮することで、必ずしも先程の基準が満たされてなくとも存廃を判断することが可能になるのです。

ここで言いたいのは、マッチングアプリに規制をかけることで将来的に(a)>=(b)を自明にできる可能性があるということです。

これは右辺である(b)マッチングアプリが存在するために学生が被るデメリット、を将来的に小さくできることを意味しています。

より具体的に言うと、適切な規制をかけることで女性へのセクハラ問題を解決に導くことができるということです。

セクハラが生じる根本的要因

具体的な規制の議論に入る前に、セクハラ問題の根本的要因を見つける必要があります。

僕は、“圧倒的に学生が弱い立場に置かれてことで、事態が発覚しずらい状況が形成されていること”に最大要因があると考えています。 

就活というのは、多くの場合圧倒的に社員の方が優位な立場にあります。

内定をチラつかれたり脅し文句を言われれば、逆らえない学生は多いと思います。

誰にも助けを求められずに、事態の発覚がなされないまま闇に葬られてしまった事例は想像できないほどあるでしょう。

実際冒頭の大林組の社員による犯行は、事件発生してから2年も経ってから発覚しています。

従って、“事態の透明化”を念頭に入れた解決策を以下示します。

具体的な規制案

身元確認の徹底

現状マッチングアプリに登録できる社会人には、企業による法人アカウント利用の企業公認ユーザーおよびボランティア社会人による個人アカウント利用のボランティアユーザーの2種類です。

ボランティアユーザーの身元はきちんと確認されていないケースもあり、犯罪につながる恐れもあります。

例えばビジネスインサイダーの記事には、以下のような事例が紹介されていました。

OBマッチングサイトで何度か相談していた人に『俺が人事だったら絶対にとる』『見せるつもりのなかった会社の資料が家にある、君になら見せてもいい』と家に来るよう誘われた。このチャンスはどうしても逃してはいけないとついて行き、その資料を見ながら体の関係を求められた。 その後、その人が会社を半年前に辞めて独立準備中だということを知らされ、どうしようもなくなった(女性、20〜24歳、学生)

出典:https://www.businessinsider.jp/post-185252

 

この悲劇はまさに、マッチングアプリ内での身元確認が徹底していないがゆえに発生したことです。

ボランティアユーザーには登録の際に社員証等の証明書を提示することはもちろんのこと、数カ月ごとに身分確認を実施するなど徹底して再発防止に取り組むべきです。

相談窓口の強化

学生からの相談窓口を設置しているマッチングアプリも中にはありますが、学生からの認知が低く殆ど意見が寄せられることはないと聞きます。

現に僕も就活中は何度もマッチングアプリを使ったことがあるのですが、その存在は知りませんでした。

運営者は相談窓口の設置位置を工夫するなどして、もっと認知度のアップに取り組むべきです。

面会場所・面会時間のルール化

これまで生じている多くのセクハラ被害は、業務後の居酒屋などで酒が入った状況で起きています。

運営側は、夜18時以降の面会であれば場所をオフィス内に限定するように義務付けたり、開始時刻と終了時刻をアプリ内で学生に報告させるなどのルールを作るべきではないでしょうか。

学生ユーザーの匿名でのレビュー機能

あるマッチングアプリでは、レビュー機能を設けているものの企業公認ユーザーに関するレビューは企業の管理担当者が内容を確認してから公開・非公開を判断しているそうです。

つまり企業にとって都合の悪い事実は簡単に揉み消せてしまうこのレビュー機能に果たして意味があるのでしょうか。

全てのレビューを内容に関わらず学生ユーザーに公開するべきではないか、と感じます。

 チャット内容の運営チェック

冒頭の2件の犯罪は、アプリ内チャットで社員が学生のLINEを聞き出したことから始まっています。

OB訪問をするのにわざわざLINEを聞く必要などないため、入手しようとする社員は下心を持っている可能性が非常に高いです。

従ってLINEやFacebookなどの個人的な連絡先を聞いてくる投稿には警告メッセージを送ったり、社員にペナルティを与えるなどの措置が必要でしょう。

最後に

以上マッチングアプリの意義に触れるとともに、現状生じている学生へのセクハラ問題を解決するために運営者が講じるべき規制策について論じてきました。

最後に本筋からはズレますが、OB訪問の意味を履き違えている一部の企業に苦言を呈させてください。

デベロッパーや商社などの大手企業の中には、OB訪問自体を評価基準として利用している企業が一部存在します。

例えばある総合商社では、OB訪問をこなした人数によって学生を評価するほかOB訪問の場において社員に学生一人一人の点数をつけさせています。

これのどこが問題かというと、OB訪問自体が目的化することでOB訪問本来の意義が失われてしまうことです。

本来OB訪問には以下の2つの意義があります。

・学生が本当に話したい社員と話し合うことで自分と社風との相性を見極めること

・通常の選考では聞けないぶっこんだ質問をすることで表には出てこない会社のリアルな一面を知ること

しかし質より量と言わんばかりに会社からOB訪問をこなした人数を評価されることで、自分が求めていない社員に対してもOB訪問せざるを得ない状況が生まれます。(圧倒的な時間の無駄です)

またOB訪問自体に点数をつけられることで、学生は通常の選考のような当たり障りのない質問しかできなくなります。

要するにOB訪問を評価対象とすることで、OB訪問本来の意義が全て消えてしまっているのです。

また僕の体育会の友達の中には、部活の先輩にOB訪問を依頼することで訪問すらすることなく満点をつけてもらっている人もいました。

果たしてこのような形のOB訪問に何の意味があるのでしょうか。

企業はOB訪問の意義を今一度再考する必要があると思います。