「中国人は採用しません」東大准教授の発言で分かる人文教育の重要性

 

東大特任准教授であり、AI開発などを行う「Daisy代表取締役の大澤昇平氏の”中国人は採用しません”等の一連の書き込みが波紋を広げています。

 

 

上記のような一連の発言に対し、人種差別的ではないかと言う批判の声がネット上で広まり一大論争となっています。

今回炎上したポイントは以下2点にあると僕は考えています。

・国籍を理由とした不採用の是非

テレビ番組内でデーブスペクター氏が

「中国人は10億人ぐらいいるので、何に基づいてそう言うのか説得力が全くないですよ」

とコメントしているように今回の炎上騒動は概ねこちら側に焦点があたっているようです。

ここでは、大澤氏の採用方針の妥当性の是非について検証します。

・発言の必要性

経営者の中には、独自の採用方針を持っている方もいるでしょう。

それが時には妥当な理由なく差別的な判断であることもあると思います。

しかし、多くの経営者はわざわざSNS上でそれを自慢げに公開したりしません。

デメリットしかないことは火を見るよりも明らかだからです。

大澤氏は、東大最年少准教授である肩書きから分かるように特定の分野では非常に優秀な方なのでしょう。

そんな方がなぜ安易に発言してしまったのかについて検証します。

国籍を理由とした不採用の是非

人種差別であるのか 

まずは彼の一連の発言が、人種差別にあたるのかどうかを考えます。

そもそも人種差別とは何でしょうか。

様々な定義がありますが、ここでは2つを見てみます。

 

「人種差別とは、人種、肌の色、国籍または出身部族もしくは信教を理由にして、個人または特定のグループを他の人と異なった方法で不公平な取り扱いをすること」

(1994年に公布された人種差別禁止法による)

 

「人種差別とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。」

(国連で採択された人種差別撤廃条約による)

 

要するに、人種差別とは特定の個人や集団に対して合理的な理由なく不利益を強制する行為を指します。

ここで重要になるのが、大澤氏の採用基準が合理的な理由を有しているか否かです。

合理性があるのならば、それは人種“区別”となり人種差別とは言えません。

今回のケースはどうでしょうか。

 

大澤氏が中国人を採用しない根拠としてあげているのが、中国人の生産性の低さです。

大澤氏はテレビ番組の取材で以下のように答えています。

「およそ200人の雇用データを分析した結果、中国人のパフォーマンスが悪いことが統計的に明らかになった」

「私の会社で中国人が情報を流出するアクシデントがあった」

 

この発言を考慮すると、以下2つの条件を満たした場合に合理性が認められます。

発言が事実である

明確な因果関係(中国人の生産性が低い→雇わない)が存在する

前者は正直判断がつきません。

よって後者にのみ言及すると、僕は以下2点を根拠として因果関係の存在に疑問を抱いています。

 

1.理由が後付けにしか感じられない

これは、数日後にテレビ局の取材を受けての発言です。

もしこのような正当かつ直接的な理由があるのならば、当該ツイートに添えて示すべきだったのではないでしょうか。

もしくは、炎上初期の段階でSNS上で示すべきだったのではないでしょうか。

しかしながら大澤氏がツイートすることといえば、専ら非難する人々への反論や中傷ばかりであり、上記の理由には具体的に一切言及していません。

 

 

2.真の理由がツイッターから垣間見える

大澤氏のツイッターを見る限り、彼は極端に右翼寄りの思想を持っています。

(勿論これ自体は問題ありません)

今回の件で大澤氏を非難する人々を一様にして“パヨク”や“シバキ隊”と決めつけていることからもよく分かります。

 

 

僕の経験上で申し訳ないのですが、“パヨク”や“シバキ隊”という言葉を使う人に中国や韓国を敵視しない人はいません。

大澤氏にとっても、中国は西側資本主義陣営の安寧を崩す脅威であり、その国民も例外なく忌み嫌う存在なのではないでしょうか。

データ分析云々は後からのこじつけに過ぎず、単なる自己の好みを採用活動に反映させているのでは、と個人的には感じます。

 

以上を踏まえると、大澤氏は合理的理由なくして特定の人種に不利益を与えていることになります。

これは、間違いなく人種差別にあたるのではないでしょうか。

しかし今回の件が、法的に罰せられるか否かについては難しいところです。 

法的な問題はあるのか

弁護士ドットコムニュースによれば、今回の事例が法律に反しているどうかは極めて微妙なラインだそうです。

昭和48年の最高裁判例によると、憲法22条(職業選択の自由)及び財産権(29条)の元で企業は採用の自由を有しているため、思想信条の自由を理由とする採用拒否は不法な行為とはならない、と明示しています。

また労働基準法3条では国籍を理由とする労働条件の差別を禁止しています。

しかし採用活動自体は労働条件にあたらないために、この法律は適用されません。

一方で憲法14条が規定する法の下の平等憲法13条が保障する人格権、憲法27条の労働権保障等の理念を具体化した立法や法解釈により、採用の自由が制約される場合もあります。

従って今回の事例が法的に問題となるかは、実際に裁判にならないと何とも言えません。 

大澤氏個人及びDaisyへの影響

 確かに法的に追求することは難しいかもしれませんが、大澤氏個人や自身が運営する企業Daisyにとって計り知れない悪影響が生じています。

事態を重く見た東京大学は、即座にHP上で謝罪をした上で学生各位にも謝罪文送っています。

また調査委員会の設置を発表しており、今後の大澤氏の進退にも影響が出るかもしれません。

さらに大澤氏が講師を務める寄付講座に出資するマネックスグループやオークファンが寄付を停止する方針を決定したほか、Daisyに出資するリミックスポイントも今後の対応策を考慮しています。

 

 発言の必要性

2つ目の論点に移りましょう。

大澤氏は自らの差別的な採用方針をSNS上で示した結果炎上してしまったわけですが、

なぜわざわざ公表したのでしょうか。

直接的な理由としては、以下2つがあると考えています。

 

1.判断力の欠如

大澤氏は、一連の発言がどれほどの影響を及ぼすかを判断することができなかったのでしょう。

彼のツイッターを遡ると分かるのが、話題は違えど過去にも過激な発言を数多くしていることです。

しかし過去の発言は、それほど話題になっていないのです。

従って今回も何の気なしに呟いてしまったのでしょう。

現に番組取材において本人は

「居酒屋で喋るぐらいのノリで書いてしまいました」

と発言しています。

2.他者の痛みを鑑みることができない

テレビ番組の取材では、つぶやきを見た中国人が傷づくと思わなかったのか、との質問に対し以下のように答えています。

「最近の若者はバカなんだよねって言われて傷付きます?ちょっとイラっとするぐらいですよね。中国人もバカだって結構言われているので、ポロッと書かれたくらいで全然傷つかないです。」

 

大澤氏は要するに他人の痛みを推し量ることができない人物なのではないでしょうか。

僕は若者ですが、赤の他人から若者と極度に一般化されて根拠なく中傷されたら普通に傷つきます。

このツイートを見た中国人も傷ついたことでしょう。

また大澤氏の上記の発言の中の「中国人もバカだって結構言われているので」という部分も引っかかります。

そんなことを言っているのは、大澤氏の周囲の残念なオトモダチだけではないでしょうか。

 

さて、上記はあくまでも差別的発言をSNS上で投稿した理由です。

それには、大澤氏の心の中に差別的な思想が存在することが前提となっています。

では、そもそもなぜ大澤氏は差別的思想を抱くようになったでのしょうか

 

結論から言うと、大澤氏の歴史を軽視する姿勢に最大要因があると思います。

大澤氏のこのツイートをご覧ください。

  

ここで大澤氏は、

「なぜ差別はいけないのか、に懐疑的になる必要がある」

と述べています。

確かに既存の概念に疑いを持ち、再考することは大切です。

イノベーションは往々にしてこうして生まれますし、これに異論はありません。

しかし、差別の是非は果たして改めて考える必要があるのでしょうか。

少しでも歴史を齧ったことがある人ならば、差別が人類にとって“百害あって一利なし”であることは一目瞭然です。

なぜならば、差別が最終的には人間同士の殺し合いに繋がることを歴史が証明しているからです。

 

ヒットラー率いるナチス政権は、純血主義に基づきユダヤ人や障害者、共産主義者を公然と差別して大量に殺戮しました。

原始共産主義社会を目指したポルポトは、知識人を中心に200万人以上の人々を殺しました。

ルワンダ内戦では、憎しみ差別しあったフツ族ツチ族が衝突し100万人以上の犠牲が出ました。

 

このように差別は改めて考えるまでもなく、殺戮を助長しる最悪な行為なのです。

誰が人と人とが殺し合う世界で生きたいのでしょうか。

しかし大澤氏はあまりの無知さゆえに、差別がなぜいけないのかが理解できないのです。

いや理解しようとすらしないのです。

興味のない分野において思考停止しているのは、大澤氏本人です。

僕はこれは、大澤氏が歴史をきちんと学ばなかったゆえの弊害であると感じています。

 

 

上記のツイートからも分かるように、大澤氏は歴史を軽視するゆえに非常に浅はかな知識しか持ち合わせていません。

それゆえに差別の是非を考えるための、そもそもの材料や機会を持たないまま大人になってしまったのでしょう。

差別主義者の発生は偶然ではなく必然です。

これほど幼少期からの歴史教育の重要性を痛感したことが、未だ嘗てあったでしょうか。